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妄想オフィスの残業手当

著者/夏川まどか

イラスト/朔ゆうき

タグ:

残業

緊縛

スーツ

強引

御曹司

社会人

オフィス


あらすじ

残業で一人残された美帆は、こっそり係長のパソコンのブラウザ閲覧履歴を覗きみる。表示されたサイト名は緊縛博物館。……あのオヤジ、仕事中になに見てるのよ! とはいえ興味が勝りサイトを確認していると「何をしているのですか?」突然背後で声がした!

ちょっとだけ立ち読み

「あっ……もっと……っ」
 無意識に出たのは、自分でも信じられないような甘えた声。
 だがそれを恥ずかしいと思う余裕もなく、美帆は夢中で男の体にしがみつく。
「もっと……もっとして……もっと強く……っ」
 終業時刻を過ぎた無人のオフィス。その奥にある、パーテーションで仕切られた応接スペースのソファの上。
 顔立ちも身なりも上品な若い男と、美帆はいま、半裸でむさぼるように互いを求めあっている。
「すてきだ……君のことを知れば知るほど、もっと欲しくなる」
 男が低い声で囁く。快感にかすれたその声にあおられ、美帆はますます熱く、大胆になる。
「私も……まるで、夢みたい……」
 本当に夢のようだ。つい先ほどまでは、会社を呪いたいぐらいの気分だったのに、いまはすべてを許して、逆に感謝してもいいとさえ思っている。
 男の息が、熱が、鼓動が、美帆を包みこみ、解放する。やわらかい唇と、やさしい指が、美帆の体を塗りかえ、淫らな獣にする。
「ああ、早く……っ!」
 気が遠くなりそうな快感に喘ぎながら、美帆はぼんやりと、こんなふうになった事の起こりを思い出す――。

 本当なら、いつもどおり定時に帰れるはずだった。
「こんなときにマシントラブルなんて、ついてないねえ。悪いけど、お先に失礼するよ」
「戸締まりとセキュリティは、しっかり頼むよ」
 悪いね、なんて言葉だけ。あたりまえのような顔をして退社していくほかの社員たち。
「パソコンは私のを使ってくれていいから。明日の会議で使う資料だけは、今日じゅうに用意しておいてくれ」
 係長も、取引先で打ち合わせのあと直帰ということで、逃げるように行ってしまう。
「はい、わかりました……」
 しかたなくそう答えると、オフィスに一人残された小倉美帆は、溜め息をついて係長のデスクへ移動した。
 昼間、美帆のパソコンがとうとう動かなくなった。前々から調子が悪いと訴えていたのに、まだ大丈夫だろうと放置されて、結果がこれだ。
 メンテナンスに来てもらったが、部品交換が必要とのことで、すぐには直らず。データだけはサルベージしてもらったものの、今日やるはずだった作業が丸々残っている。
「あーあ……もうやだ、こんな会社」
 慣れない係長の席で書類を広げながら、美帆は声に出して愚痴った。
「給料は安いし、仕事は退屈だし、人に自慢できるような会社でもないし。男性社員が多いといったって、冴えないおじさんばっかりだし。このままここに勤めてても、いいことなんか一つもなさそう」
 女性社員はほかにもいるが、部署が別で、ここは美帆だけ。おかげで雑用もすべて一人で抱えこむことになり、だれかが手伝ってくれることもなく、休んだら休んだだけ仕事がたまってしまう。
 今日のように一人で残業することも、しょっちゅうだ。
「ああ、もう! 自分のパソコンじゃないと、やりにくいったら!」
 ユーザー辞書が違うので、入力時間がよけいにかかる。マウスの動きが鈍くて、いらいらする。
「こんなにがんばってるんだから、少しは特典があってもいいじゃない? たとえば、ちょっとかっこいい男性社員がいるとかさあ。それだけでも明るい気分になって、毎日出勤する張りあいも出てくると思うのよねえ」
 自分を励ますように独り言を続けながら、手早く作業を進めていく。
「そういえば、もうじき社長の息子が入社するって、だれか言ってたっけ。後を継ぐために戻ってくるとか。まだ三十歳ぐらいって話だけど……あー、でもあの社長の息子じゃ、期待できないよねえ」
 社長は背が高くてがっしりしているが、顔がまるで悪役俳優だ。その息子なら、推して知るべし。
「それよりいっそ、いますぐ火事でも停電でも起こって。そしたらこれ以上仕事しなくてすむから……」
 不平たらたらながらも奮闘すること約二時間、どうにか会議用の資料をまとめおえた美帆は、椅子の背にもたれて伸びをした。
「今日はもう、会議の準備だけしたら帰ろうっと」
 プリントアウトした書類一式をコピー機にセットして、ふたたび席に戻る。ほかの作業を始めてしまうとキリがないので、必要部数のコピーが終わるまで、インターネットで時間をつぶす。
 ふと好奇心がめばえた。
「係長って、ふだん何を見てるんだろ?」
 ブラウザの履歴を確認したとたん、手がとまった。
 《緊縛博物館・ギャラリー24》、《緊縛博物館・ギャラリー23》、《緊縛博物館・ギャラリー22》――。
「ええっ、これって……」
 思わずクリックしてしまい、黒っぽい怪しげなページが開く。中央に大写しになっているのは、縛りあげられた女性のヌード写真だ。
「うわ、ちょっと……係長って、こういう趣味だったの? ていうか、仕事中に何見てるのよーっ!」
 美帆は一瞬嫌悪感に眉をひそめたが、それよりも係長の秘密を知ってしまった興奮がまさり、《次へ》と書かれたリンクを、こんどはどきどきしながらクリックする。
 また同様の画像が現れた。モデルはなかなかのルックスで、女性の目で見ても憧れるような美人だ。豊満な体に荒縄が食いこみ、美しい顔が苦悶とも愉悦ともつかない表情を浮かべている。
 ぞくっとして、美帆は唾を飲みこんだ。
「やだ……なんかすごく、エロい……」
 女性を辱めるというより、緊縛美をテーマにしたサイトのようだ。上品なイメージなので、一般的なポルノほど抵抗を感じない。
 つい次から次へとページを開いていくと、着衣での緊縛写真も出てきた。ストーリー性を持たせたコスプレ的な連続写真もある。
 道を歩いていたスーツ姿の女性が、背後から口をふさがれて車に押しこまれ、縛られて監禁され――。
「OLの誘拐ものって、みんな好きなんだねえ」
 そうつぶやいた瞬間、美帆は、写真のOLと自分を重ねてしまって、どきりとした。
 恐怖からではない。縛られたOLがなんだか幸せそうで、うらやましく感じてしまったのだ。
「ああもう、だれかさらってくれないかな」
 半分本気で思ってしまう。
「強盗でもいいや。突然この部屋に入ってきて、騒がれないように私を縛りあげるの。でも強盗は私に一目惚れして、お金のことも忘れて私の体に……」
 想像したらぞくぞくしてきた。
「それで、その強盗が覆面を取ると、すごいイケメンなのよ。性格も本当はいい人で」
 手足を縛った美帆に猿轡をかませようとした強盗の目が、はっと身開かれる。強盗がみずから覆面をはぎとると、現れたのは、彫りが深くて男らしい、美帆好みの整った顔。強盗は戸惑うように目を伏せて、やさしく美帆の唇にキスを——。
「ああ、でも彼と私は、犯罪者と被害者。住む世界が違うのよ。だからせめて、ひと晩だけでも結ばれようと……」
 縛られたまま、相思相愛の男に激しく愛される状況を思いうかべると、体がうずいて股間が熱くなった。
 無意識に手が動く。
 右手が股間に伸びたが、スカート生地がぴんと張っているせいで、直接刺激することはできない。もどかしくて、左手で右の胸に触れる。布地ごしにもかかわらず、そこは敏感で、走った快感にびくっと体が震える。
「ん……」
 目を閉じると、見えなくなった分、皮膚感覚がより鋭敏になった。
 硬くなった乳首が、衣服を押しあげているのがわかる。そっと触れただけで、寒気のような波紋が乳首を中心に広がる。下腹部が強く脈打ち、股間が濡れるのを感じる。
 犯されているつもりになって、右手をスカートの下に忍ばせた。スカートをたくしあげながら、ストッキングに覆われた太腿をじわじわと撫であげる。
「あん……駄目……」
 わざと声に出して言うと、興奮してさらに熱くなった。
 指先で股間に触れる。感じるより先にびくんと体が震え、割れ目のあたりが呼吸をするようにうごめいた。じわりと熱いものがにじみ出てくる。
 さらに指を動かそうとしたそのとき、背後から男の声が響いた。
「何をしているんですか?」

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