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デパートの試着室で秘密の残業

著者/雲乃いつこ

イラスト/甘野有記

タグ:

残業

スーツ

メガネ

上司

デパート

試着室


あらすじ

デパートの紳士服売場で働くユウカはある日、下着をつけずに出勤するはめに!? 男性客の不躾な視線に、身を捩る接客態度を見かねた上司の三矢は、隣の女性下着売場で購入してきた下着を手渡す。ホッとして着替えに入った試着室には、なぜか三矢も一緒に…。

ちょっとだけ立ち読み

 鏡に映った首筋の赤い痕、カズヤがつけたキスマーク。仕事中の制服の襟は詰まってるからいいとして、通勤の時カットソーからは出ちゃうよね。どうして男の人って、後先考えずにこういうことしちゃうんだろう。困るのは私なのに。
 ラブホのバスルームでシャワーを浴びながら考えていると、バスルームの外でバタバタと音がする。
「ユウカ、俺、物産展の準備あるから先に出るわ!」
 カズヤの声とほとんど同時に部屋のドアが閉まる音。バスルームから室内に首だけ出すと、もう部屋はもぬけの殻だった。
 信じられない! それならそうと言ってくれれば私だってもっと早く支度したのに。
 そりゃあ、同じ百貨店で働いている私たちが一緒に出勤するわけにはいかないけど、ひとりでラブホを出るのはかなり気まずいものだ。他の部屋から出てくるカップルと鉢合わせたりすることもあるし。
 職場の同期のカズヤとは、なんとなく気が合って、三か月前に飲み会の流れでエッチしちゃってからなし崩し的につき合い始めた。一緒にいると楽しいけど、考えが足りないというかデリカシーがないというか……、つき合い始めのラブラブ期間が過ぎて、そんなことが気になり始める時期だ。
 時計を見ると九時二十分。このホテル街から勤務先のM百貨店までは歩いてすぐだけど、十時半の開店四十五分前には到着していたいので、そろそろ私も出なくちゃいけない。
 私は体についた水滴をバスタオルで拭いながら下着を……探すけど、ない。
 どうして!?
 昨夜は……どうしたんだっけ。
 確か、はじめは痴漢ごっこ。
 満員電車で身動きが取れないという設定で、服を着たまま無抵抗の私のスカートにカズヤが手を入れて、最初に下着から取っていったんだったよね。
「電車の中でノーパン、ノーブラだなんて、おまえはエロい女だ」
 とか言って、あの後……。
 ヤバイ、記憶にない。
 ものすごく盛り上がってたから、たぶんその辺に投げ捨てたんだろうけど、ベッドの下にも、ソファの影にも……ない。
 どういうこと!?

 時間ギリギリまで探したけれど、私の下着は見つからなかった。カズヤに聞こうにも電話に出ないし、下着がないから欠勤するというわけにもいかず、とりあえず私はノーブラノーパンで服を身につけ、店の更衣室に滑り込む。
 何が「おまえはエロい女だ」よ! 現実にものすごくエロいことになっちゃったよ!
 うちの店では開店四十五分前から売り場の清掃や点検、十五分前からフロアごとの朝礼ということになっている。
 私が更衣室に入ったのは三十分前だったので、幸いもう誰もいなかった。チーフの三矢先輩に怒られることは確実だけど、ノーパンノーブラで着替えるところを誰かに見られるわけにはいかないので、よかったと思おう。
 ロッカーから制服を出して、手早く着替える。白いブラウスに、チェックのリボンタイと、グレーのベストにスカート。スカートの裏地が、素肌にぺっとり張り付くようで違和感がある。うちの店のスカートは少しだけフレア気味に裾が広がっていて、それがお気に入りだったんだけど、今日ばかりはお尻のあたりが心もとない。
 とにかく早く着替えて、開店準備をしているふりをしながら下着売り場に行こう。汚しちゃったとかなんとか適当なことを言って下着を買ってこなくちゃ。
 慌てて更衣室を出てエレベーターに乗ろうとしたら、後ろから声をかけられた。
「遅い! 何やってる!」
 私の所属する紳士服売り場のチーフ、鬼の三矢先輩だ。お客様には絶対に見せない不機嫌な形相。銀縁眼鏡の向こうの視線が氷のように冷たい。
「すっ、すみません……」
 しっかりしたベストの上からわかるはずもないのに、私は反射的に両手で自分を抱きしめるように胸を隠してしまう。ベストの固い生地がブラウスの上からこすれて乳首が敏感に反応してしまい、私はいっそう身を固くした。
「なんだ……? 具合でも悪いのか」
「いいえ、そんなことありません!」
「そうか。今日は山崎が急な発熱で休みだ。午前中、カジュアルは俺とおまえだけだからな。行くぞ。十分で点検を済ませろ」
 そう言うとチーフはエレベーターに乗り込んだ。
 ああ、なんでこんな日に山崎さん、休むかなあ。っていうか、今、私、具合が悪いって言って休憩するふりして下着売り場に行けばよかったんじゃない?
 などとぐるぐる考えるも、すべて後の祭り。私はすごすごとチーフの後からエレベーターに乗り込んだのだった。

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