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イケメン美容室

著者/白金あろは

イラスト/天点

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あらすじ

OL1年目の桜子は表参道のカフェでイケメンの美容師・達也にナンパされる。髪を切りに行った桜子は、遊び人だと思っていた彼の真面目な仕事ぶりにデートをOK。実は努力家で、コンテストに向けて技術を磨く達也に心を動かされた桜子は彼のマンションで…。

ちょっとだけ立ち読み

 表参道などという場所にいると、桜子はなんとなく気おくれしてしまう。周囲にいる人たちすべてがどことなくオシャレで、自信があって、華やかに見えてしまうから。
 カフェのテラス席に腰を下ろし、グラスに注がれたアイスカフェモカに口をつけながら桜子は周囲を見回した。空はよく晴れて日差しは熱いくらいだ。本当は室内の席に着きたかったのだが空きがなかった。東京はいつでもどこでも混んでいて、ちょっと疲れる。
 相葉桜子は現在二十一歳。就職したてで、女性の先輩について外回りの営業を勉強中だ。着ているスーツは就活中にお世話になったもので、長い黒髪は後ろで一つにまとめている。膝に置いたA4サイズの書類が入る黒のバッグからスマホを取り出し、会社からも先輩からも連絡が入っていないことを確認した。
 私用で銀行を二つ回りたいから、と先輩は桜子に言い、カフェで休憩がてら待っているようにと告げた。それに忠実に従った桜子だが、時間は三時過ぎでちょうどコーヒータイム。疲れをとるのにちょうどよかった。
 グラスの中身をストローでかき回していると、ふと視線を感じた。反射的に目をやると、隣のテーブルに座っている若い男性が自分をじっと見ていることに気がついた。
 不思議に思った桜子は、顔に何かついてるのかな、と手で頬に触れた。髪も触ってみる。特に変な感じはない。服を見下ろし、スーツやブラウスのボタンも確認した。ちゃんとはまっている。まさか、スカートのホックが外れている、なんてことはないと思うが……。たとえそうでも外から見えるわけはない、と思いつつも、気になったのでそっとスーツの裾から手を入れて背中側を確認する。
「ぷぷっ」
 突然笑い声が聞こえた。隣のテーブルだ。自分のことを笑ったのだ、と気づいた桜子はカッと頬が熱くなった。
 カタンと音がして、隣の男性が席を立つ。桜子のテーブルにやってきた。
「すみません。気にされなくても、どこもおかしなところはありませんよ。ステキなひとがいるなあと思って、つい見てしまったんです」
 少し掠れたような声で、男性はニッコリ笑った。ビックリしていた桜子は男性をマジマジと見る。
 肩にかかるような長めの髪は明るい茶色で、ところどころ赤っぽい色が入り、左耳にはピアスをしている。卵型の顔は驚くほどキレイで、しかも小さい。前髪の間からのぞく瞳は切れ長で爽やかだ。細身の身体をゆるいサマーセーターに包み、下はカジュアルなデニム姿。
「あの……何かご用でしょうか?」
 桜子は眉をしかめ、警戒心丸出しの顔と口調で尋ねた。
 男性はモデルや芸能人のようにすっきりと整った容貌で、ひと言でいえばカッコよかった。しかしどう見てもチャラチャラした雰囲気だし、平日の午後という状況を考えてもサラリーマンではないだろう。もしかしたら大学生かもしれないが、いずれにしろあやしい。何か売りつけてくるんじゃないだろうか、と、頭の中で黄信号が点滅する。
 男性は目を見開いて桜子を見、フッと笑う。白い歯が少し見えた。
「特に用はないです。座ってもいいですか?」
「イヤです。そこは先輩の席です。もうすぐ来るんです」
「じゃ、こっちの椅子を」
 男性は自分が座っていた二人用テーブルの椅子を勝手に持ってきて、桜子の横に置いた。桜子が茫然としていると、さっさと座ってしまう。
「あやしい者じゃありません、美容師なんです。職業柄、どうしてもひとの髪が目に入ってしまいまして」
「美容師……」
 桜子はおうむ返しに呟いた。確かにそう言われれば、男性のフリーな髪型や服装にも納得できる。
「はい。あなたの黒髪はとてもキレイですけど、もっと似合う髪型があると思うんです。せっかく素材がいいのに、もったいない」

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