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あっちの男、こっちのオトコ

著者/白金あろは

イラスト/朔ゆうき

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三角関係

不倫

再会

残業

スーツ

メガネ

上司

年上

幼馴染

社会人

オフィス


あらすじ

薬指のリングがなければいいのに…。かおりの憧れの松原部長は既婚者。不倫も悪くないかも。と思い始めた矢先、幼なじみの洋介と五年ぶりに再会。すっかりいい男に成長した彼からの告白に揺れるかおり。翌日、松原部長との残業でそんな気持ちを見ぬかれて…。

ちょっとだけ立ち読み

「五十嵐さん、ちょっと残業を頼まれてくれるかな」
 突然課長が言ってきたのは、四時を回った頃だった。かおりは家が近いせいか、よく残業を命じられる。
「残業、ですか……」
 かおりは珍しく不満を持った。いつもなら簡単に引き受けるのだが、今日は仕事に身が入らない。それというのも昨日のセックスのせいなのだが……。
「都合悪いか? 実は松原部長から頼まれてさ。ちょっと調べてることがあるから、その手伝いで総務課員をひとりほしいって言われたんだ。一、二時間ですむらしいんだが、できれば字の上手いひとがいいって言うんで」
 ドキッとした。部長と、残業。
「用事があるなら他の奴に……」
 言いかけた課長の言葉を、かおりは遮った。
「いえ、やります。そのくらいなら大丈夫です」
「そうか、よかった。悪いな」
 ホッとしたように笑う課長を無視して、かおりは机のパソコンに向き直った。なんだか頬が熱い。部長と仕事ができるなんて、ちょっと嬉しい気がする……。

 定時を過ぎたかおりが向かったのは、階上にある小会議室だった。「国税庁の監査か何かが入るのかな?」と課長が言ったので、かおりは緊張していた。そういう仕事なら経理部だと思うのだが、書類を清書するとかの必要があるのだろうか?
 階段を上がって小会議室のドアをノックする。すぐに返事があり、かおりは入室した。
「やあ、忙しいところ悪いね」
 部屋にいたのは部長ひとりだった。かおりはキョロキョロする。あらかじめ人数を教えられたわけではないが、少なくとも数人はいると思っていた。
 部屋は、中央に長方形のテーブルが二個隙間なく並べてあり、その周囲を三脚ずつの椅子が囲んでいた。その他の椅子は部屋の隅に重ねられており、テーブルの上には分厚い書類の束がいくつか乗っている。
「座りなさい」
 かおりは言われるまま、端の椅子に腰を下ろした。部長はその隣に座る。近い距離に緊張が高まった。他の社員はまだ来ないのだろうか?
「昨日の夜、何かあったんじゃないか?」
 いきなり顔を向けて問われたかおりは、ドキンと胸が高鳴った。
 昨日の夜といえばヨウちゃんとのセックス。告白され、路上で甘いキスをし、そのあとはホテルで熱いアレを受け入れた。
 かおりは脳内に浮かんだ昨日の記憶を、頭をブンブン振って追い出した。部長がそんなこと知ってるわけない。何か他のことを聞いているのだ。昨日、何かあった……? しかし思い出しても何もなかった。残業して、部長にチョコレートをもらって……。
「チョ、チョ、チョコレート……のことでしょうか……?」
 上目遣いに部長を見る。
「違う。帰宅後か、それとも帰宅途中かもしれない。なぜそんなことを聞くんだと思うだろうが、今日の五十嵐さんは変だ。昨日とはまるで違っている。何かがあったとしか思えない」
 部長の鋭い指摘に、かおりはゴクリと唾を飲んだ。
「恋人がいるのかい?」
 突然の発言に「ええっっ?」と、かおりの声はひっくり返ってしまった。
「今日の君からは女の匂いがする」
 部長の顔が近づいた。かおりは思わずさけるように軽く身体をのけ反らせる。魅力的な低音ボイスが、なぜか色っぽく足の付け根に響くのだ……。
「恋人に抱かれたんだね?」
「ち、違いますッ」
 さすがにビックリして強い口調で否定した。
「恋人なんていませ……ん」
 語尾が弱くなってしまったのは、部長の目がかおりを覗き込んでいるからでもあるし、洋介のことが頭にあったからでもあった。
 ヨウちゃんは恋人? セックスはしたけど、違うような気がする。
「嘘をつかなくてもいい。君くらい魅力的な女性なら恋人がいるのは当たり前だ。だが……」
 眼鏡越しの部長の瞳がかおりをじっと見据える。
「とても後悔している。大切にしようと、時間をかけすぎてしまったようだ」
「……は?」
 言っている意味が理解できなかった。
 部長の手が、そっとかおりの手を握る。
「よその男にさらわれてしまったとは。もっと早くこうするべきだった」
「あの……」
 両の手を握り取られ、ゆるく撫でるようにさすられた。
「私の想いに気づいてくれたか? ずっとこうしたいと願っていたんだよ」
「ぶ、部長……っ」
 片手がスカートに下り、ももに触れられる。触るか触らないか、といった柔らかいタッチで手を動かされると、しだいにイケない気分になってしまう。
「ひとが……来ます。残業しないと……」
 かおりが言うと部長は、口の端を上げて笑った。
「素直だな、信じたのかい? ここは誰も来ないし、仕事なんてない。強いて言えば……」
 部長は立ち上がりながら、かおりの腕を取って同じように立たせた。次いでかおりの背後に回り込む。
「私とここで気持ちよくなることが、君の仕事だ」
 グッ、と背中に部長の身体が押しつけられた。まさかという気持ちが強くて信じられなかったが、部長に誘われているのだと認識する。
「部長、でも……」
「黙って」
 背後から頬に手を当てられる。その手は髪の生え際を辿るように額に移動し、反対側の手はうなじから髪を梳いた。
「綺麗な髪だ」
 耳元でささやかれ、ビクンと震えてしまった。低い声が脳を溶かしていくようだ。部長の手がそのまま髪の中に入り、頭の形を確かめるようになぞられた。
「つややかでまっすぐで、若く健康な女性の髪だ」
 ささやく声が終わると、耳たぶを唇で挟まれ、舌でちろちろ嬲られた。
「……ひっ……ふ」
 我慢しようと思うけれど、声は漏れる。無意識に身体をよじるが、がっしりと抱きしめられて逃げられない。
「イヤかい? イヤならやめてもいいんだが」
 そう聞かれると、イヤでもないかおりは何も言えなくなってしまう。
「部長、でも、こんなトコで……」
「誰も来ないと言ったはずだ」
 再び耳を甘噛みされ、舌が侵入してくる。

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